今月の立ち読み

未来に語り継ぎたい名馬物語(71)

未来に語り継ぎたい名馬物語(71)
牝馬初の春秋マイルGⅠ制覇
ノースフライトの華麗な飛行
文 = 谷川直子

今月の立ち読み

デビューからラストランまでわずか一年半ながら、11戦のキャリアで2つのマイルGⅠを勝利。
外国馬も強豪牡馬も寄せ付けなかった、「天才少女」の足跡を辿る。


思わぬ敗戦を喫するも異例の
ステップで牝馬三冠最終戦へ

 ノースフライト、愛称フーちゃんのことを書こうとすると「天才少女」という言葉がすぐに思い浮かぶ。マイル戦での圧倒的な強さ。しかしその勝ち方は自分の才能のまま、いつも軽やかだった。いったい彼女はどんな女の子だったのだろう。

 父は凱旋門賞馬トニービン。その初年度産駒にあたる。母は社台ファームの生産馬シャダイフライトで、17歳(現表記)と高齢の母馬を社台の繁殖セールで買ったのは大北牧場の斎藤敏雄氏だった。牝馬が生まれたら跡取りにしようと思っていたという斎藤氏は、牧場の持ち馬としてノースフライトを走らせる。

 栗東の加藤敬二厩舎に入厩したノースフライトの初出走は1993年5月。大柄でバランスのよい好馬体のノースフライトは、クラシックには間に合わず裏開催の新潟でデビューする。芝1600㍍を2番手で追走し、2着馬に9馬身差をつける圧勝だった。

 2戦目は7月の小倉。500万下の足立山特別で、2着馬に8馬身差をつけてまたも圧勝。このとき手綱を取った武豊ジョッキーが、「秋にはベガのライバルになるかも」と冗談っぽくコメントしたのは伝説だ。

 デビュー3戦目の秋分特別でノースフライトは初めて5着に敗れた。敗因は中間の熱発とフケ。この時点で賞金が800万。当時牝馬クラシックの最終戦であったエリザベス女王杯のトライアルレース・ローズステークスへの出走がかなわず、古馬にまじって府中牝馬ステークスに出走することになった。

 50㌔の軽量と、1、2戦目の圧勝が買われて4番人気に推されたノースフライトは、スタートであおったもののすぐに好位にとりつき、直線半ばで抜け出すと2着馬パーシャンスポットを4分の3馬身差でしのいで重賞初勝利を飾った。鞍上は角田晃一騎手で、陣営の目論見通り異例のステップから牝馬三冠最終戦へと駒を進めたのである。

 この年のクラシックではトニービンの初年度産駒が大暴れしていた。牡馬ではウイニングチケットが柴田政人ジョッキーに悲願のダービー制覇をプレゼントしていたし、牝馬ではベガが桜花賞とオークスの二冠に輝いている。エリザベス女王杯は各馬打倒ベガが目標で、ファンは遅れてきた2頭に注目していた。1頭はローズステークスを勝ち6戦4勝の成績を引っ提げて1番人気に推されたスターバレリーナ。そしてもう1頭がノースフライトである。ノースフライトは5番人気。スターバレリーナとの人気の差は、ノースフライトの実績からくる距離への不安にあった。こればっかりは走ってみないとわからない。春に活躍したベガ(2番人気)、ユキノビジン(3番人気)なども顔を揃え、ノースフライトは角田晃一騎手とのコンビで本番に臨んだ。

 レースはケイウーマンが引っ張って進む。ユキノビジン、スターバレリーナらを前に見て、ノースフライトは7番手。すぐ後ろにベガが控えた。直線に向いて好位につけていた有力馬が激しく競り合う中、残り200㍍でノースフライトが先頭に立つ。そこへ後方から追い込んできた9番人気のホクトベガが最内を伸び、残り100㍍で並んだ。そしてホクトベガがさらに伸び、1馬身2分の1差がついてノースフライトは2着に終わった。

「抜け出したときは勝てると思ったんですが…」と角田晃一騎手。またノースフライトとのコンビで全国的に知られるようになった石倉幹子厩務員は、「フーちゃんはやれるだけやったんですから、私は勝ったのと同じくらいうれしかったです」と相棒をねぎらった。後の「砂の女王」と「マイルの女王」がワンツーを決めた93年のエリザベス女王杯は、3着に「ダービー馬の母」となるベガが入り、日本の競馬史に輝く3頭が一瞬出会った不思議な運命のレースである。

GⅠ制覇への強敵と思われた
強力外国馬とのあっけない決着

 その年、最後にノースフライトが選んだのは12月の阪神牝馬特別だった。鞍上に再び武豊を迎え1番人気に推されたノースフライトは、2番手から4コーナーで先頭に並びかけ、ベストダンシングを突き放して1馬身2分の1差で快勝する。

 明けて94年、4歳になったノースフライトの緒戦は京都牝馬特別。ここも57キロを背負いながら1.4倍の圧倒的人気に応え、フェイヴァーワン以下に6馬身の差をつけて圧勝した。ここまで重賞はすべて牝馬限定戦であったが、マイル戦での強さは安定しており、陣営は次走にマイラーズカップを選ぶ。

 この年、京都競馬場改修に伴い阪神開催の一部が中京に振り替えられたため、マイラーズカップは中京の芝1700㍍で行われた。頭数こそ多くはなかったが、この年の秋に天皇賞を勝つネーハイシーザーとジャパンカップを勝つマーベラスクラウンが出走。しかしノースフライトは単勝1.8倍の大本命に推される。そしてまた人気に応えた。3番手につけ4コーナーで前を行くネーハイシーザーに並びかけると、残り200㍍で先頭に立ち追い込んできたマーベラスクラウンをクビ差しのいでゴールイン。1分40秒6はレコードタイムだった。「次は大きいところを狙いたい」と加藤敬二調教師が述べた通り、もはや国内に敵はおらず、安田記念でもこの馬が本命に推されるだろうと誰もが予想していた。


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