今月の立ち読み

未来に語り継ぎたい名馬物語(58)

未来に語り継ぎたい名馬物語(58)
乾坤一擲の大逃げ
ツインターボが愛される理由
文 = 姫園淀仁

今月の立ち読み

小柄な体で、デビューから一貫して逃げの手を打ち続けたツインターボ。
タイトルはGⅢ3勝のみ、大半は後続にのみこまれながらも、
ハマったときの逃走劇は痛快そのものだった。


 道中で先頭を走る馬のことを「逃げ馬」と呼ぶが、よくよく考えてみると、ほとんどの場合は何かから逃げているわけではない。勝利に近づくための戦略のひとつとして、ただ先頭を走っているにすぎない。

 逃げ馬のことを英語では 文字通りに“Front Runner”と呼ぶという。前を走る者、先行者、とても正確な表現である。もしもこれが逃げ馬を直訳した“Runaway horse”だと、暴れ馬に近い意味になるらしい。

 なぜ日本人が“前を走る者”に対して「逃げる」という、ネガティブな意味を持つ動詞を用いるようになったのか。出る杭は打たれるの島国根性なのか、はたまた盛者必衰の無常観なのか、様々な考察ができそうで面白いが、今回のテーマから逸れるのでそろそろ止めておこう。

 本題に入る。大半の逃げ馬は勝つための戦略として逃げを打っている。いわば打算の逃げだ。しかしごくごくまれに、生き様としての逃げ、天然の逃げ、逃げることでしか生きられないようなRunaway horseが存在する。1990年代前半、出走するたびに大逃げを打ち続け、ファンをおおいに沸かせた希代の逃げ馬がいた。

ツインターボの生きる道を決めた2つの逃げ

 1988年4月13日、北海道静内町の福岡敏宏牧場に父ライラリッジ、母レーシングジイーンの仔馬が生まれる。仔馬は2歳になった90年春、美浦トレセンの笹倉武久厩舎に入厩し、ツインターボと名付けられる。

 400㌔少々の華奢で小柄な馬体をしており、馬房ではおとなしかったが、人がまたがると徹底的に反抗する性格で、調教には手間がかかった。ゲート試験の通過に4カ月もの期間を要し、デビューは3歳の3月までずれ込んだ。

 ツインターボは91年3月2日の新馬戦を逃げて快勝。2戦目のもくれん賞も逃げ切って勝利。無傷の2連勝でダービートライアルのオープン特別・青葉賞へと駒を進める。

 青葉賞。8枠16番に入ったツインターボはゲートで半馬身ほど出遅れた。東京芝2400㍍の多頭数の外枠はただでさえ逃げづらいのだが、出遅れたところへ17番グレイトウェーブが内へ寄せてきた。もはや逃げを諦めて控えざるをえない状況である。しかしグレイトウェーブが前に出ようとした瞬間、馬群に入るのがよほど嫌なのか、ツインターボのスイッチが入り、急加速する。

 いったん火のついたターボエンジンは止まらない。1コーナーでハナに立つ。が、今度は抑えが効かなくなる。先頭に立った後の2コーナーでは、行きたがるツインターボと、抑えようとする大崎昭一騎手の間で、少しちぐはぐになる。前半3ハロンのラップタイムは『12秒5-10秒7-11秒5』。短距離戦の前半を彷彿させるスタートダッシュから、何とかなだめてペースを落として逃げ続けたのだが、ラスト200㍍で完全に失速。9着に敗れてしまう。

 自己条件の駒草賞も逃げて5着に敗れた後、ツインターボは福島のラジオたんぱ賞で初の重賞に挑む。格上挑戦ながらも、やや小粒なメンバー構成ということもあり、単勝8・5倍の5番人気に支持された。

 ラジオたんぱ賞のゲートが開く。出遅れこそなかったが、今度は飛び出すようにして2頭分ほど外へヨレた。他馬に接触しそうになったところで、ターボエンジンが点火する。福島芝1800㍍もゲートから1コーナーまでの距離は短いが、ドタバタしながらもハナを取り切る。

 単騎先頭のポジションを取った後もペースを落とさずに、2馬身ほどのリードを保ち、スピードを持続して逃げる。3コーナー過ぎから鞍上の手が動き、4コーナーでは脚色がやや鈍るが、ここで大崎騎手が左ムチを激しく連打。するとしぶとい脚を使って、後続に差を詰めさせない。ラスト200㍍からゴールにかけては左ムチを打ちっぱなし。伸びはしないが、まったくバテないのだ。結局、ツインターボは一度も影を踏ませずに逃げ切って重賞初勝利。ラップタイムは『12秒3-11秒1-11秒5-12秒2-11秒8-12秒3-12秒4-12秒7-12秒2』。全力を出し切ったケレンのないラップである。

 今振り返ると、青葉賞とラジオたんぱ賞に、ツインターボの個性が凝縮されているように感じる。

 現役時代はあまり言及されなかったが、ゲート試験に4カ月もてこずったように、ツインターボはゲートが下手である。青葉賞は出遅れ、たんぱ賞はヨレるという形でゲート難が出た。しかしゲートが苦手なのに、馬群から逃げるように前へ行こうとする。しかも騎手が抑えようとすると持ち味が死んでしまう。結果的に、オーバーペースの逃げばかりになる。


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