今月の立ち読み

特別読物

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オグリキャップと瀬戸口勉
~ 有馬記念の舞台で
文 = 山本徹美

今月の立ち読み

 今年11月9日に逝去した瀬戸口勉元調教師は数々の名馬を手掛けた伯楽だった。とりわけオグリキャップは多くのファンに愛され、自身にとっても特別な存在だったという。名馬と名調教師の歩みのなかでもとくに印象に残る3度の有馬記念を、当時を取材したノンフィクションライターが振り返る。

 芦毛の両雄、グランプリで最終決戦。

 第33回有馬記念(1988年)は、オグリキャップとタマモクロスの勝負にファンの熱い視線が注がれた。両馬は、第98回天皇賞・秋、第8回ジャパンカップと出走、いずれもタマモクロスが先着していた。

 タマモクロスはこの有馬記念をもって引退を表明していたため、ラストランとなる。オグリキャップ陣営にしてみれば、なんとしても雪辱したい。調教師の瀬戸口勉は、岡部幸雄に騎乗依頼をしたが、西(栗東)の馬はよくわからないから、と婉曲に断られた。それでも瀬戸口は諦めず、粘り強く交渉を重ね、

 「1回だけでいいから」

 「わかりました。では今回だけ、ということで」

と、ようやく承諾を得たのである。

 「中山で走らせたことは」

 「まだ、ありません」

 「それなら連れて行きましょう」

 本番の10日前、中山競馬場で岡部はオグリキャップに装鞍所からパドック、本馬場と見せ、2500mのコースを走らせてみた。国内にかぎらず海外での調教も体験している岡部は、その経験から実際に乗って手綱をにぎれば、その馬の資質と長所を把握することができる。

 瀬戸口は、血統からオグリキャップはマイラーであるとみていた。2500mは、やや長い。だが、岡部は、充分こなせる、と手ごたえを感じたのである。

 グランプリ当日の天候は晴れ、良馬場で開催された。ファン投票1位はタマモクロスで、単勝オッズも2.4倍で1位。オグリキャップはいずれも2位で、単勝は、3.7倍であった。

 レース序盤、オグリキャップは7番手につけ、タマモクロスは殿につける。1周した時点で、オグリキャップは4番手へ。タマモクロスは追い上げてきて、第4コーナーで先頭集団へ。10数頭が塊と化し、ゴールをめざすなか、岡部はピシッと左鞭をひと叩き。たちまちオグリキャップは群を抜き、先頭へ躍り出た。追うタマモクロスに鞍上の南井克巳が激しく右鞭をくれるが、届かない。

 オグリキャップは有馬記念を制覇、ようやくタマモクロスに一矢報いた。瀬戸口にしてみれば、1973年3月に調教師免許を得て以来、初めて手にするGⅠの勝利であった。


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