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今月の立ち読み

未来に語り継ぎたい名馬物語

周囲で何があろうと自分のペースを変えない、
どこか達観したようなところがあった。

 栗東トレーニングセンターで調教をこなしていた武豊に、調教師の白井寿昭が声をかけた。

「サンデーの男馬がおるんやけど、乗ってくれるか」

 流星に特徴のある黒鹿毛の2歳馬が、調教スタンド前に曳かれてきた。

 ――ハンサムな馬だなあ。

 というのが、武がその馬、スペシャルウィークから得た第一印象であった。

 1997年11月29日の新馬戦に向けた追い切りでのことだった。

 走らせてすぐ、武は、乗り味の素晴らしさに驚いた。スタミナも抜群で、ゲートから1マイルで104秒ほどの好タイムを叩き出したにもかかわらず、すぐ息が戻り、ケロッとしている。

 武は、いまだ手にしたことのないダービーの栄冠が近づいてきたのを感じた。

 同時に、前年のダービーで2着に惜敗したダンスインザダークの背中の感触が思い出された。牧場でダンスインザダークに跨ったときは、自身の手綱でオークスを勝ったダンスパートナーの全弟だと知っていたので、乗る前から楽しみにしていた。それに対し、スペシャルウィークとの出会いは突然だった。管理者の白井が演出したサプライズだったのか。

 スペシャルウィークは、ダンスパートナーと同じ白井厩舎で、担当する持ち乗り調教助手も同じ村田浩行。しかも、デビュー戦は、ダンスインザダークのそれと同時期、同舞台である阪神芝1600mの新馬戦だ。武は、この馬をめぐる不思議な縁のようなものを感じた。

この馬はただ強いだけではなく
特別な「運」も持っている

 アクシデントさえなければ新馬戦を勝てると思った武は、マイルで行われたそのレースで、スペシャルウィークを、過去のダービー馬が東京芝2400mで刻んだラップに近いペースで走らせ、勝った。ダービーを勝つために、武が初めて試みた「英才教育」である。

 翌週のインタビューで、こちらから問いかけたわけではないのに、彼はスペシャルウィークについて語り出した。

「先週新馬勝ちしたスペシャルウィーク、初めて跨ったときから大物だなと思っていたら、そのとおりの強い勝ち方をしてくれた。先頭に立つと耳を立ててキョロキョロしたりと、まだ子供ですが、薄くて、脚の長い、いい馬ですよ」

 2戦目は、98年1月6日、京都芝1600mで行われた500万下の白梅賞。武は、返し馬で、同じレースに出ていた弟の幸四郎にこう言った。

「これ、今年のダービー馬だぞ」


(続きは、9月24日発売の『優駿』10月号でお読みください。)

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