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今月の立ち読み

未来に語り継ぎたい名馬物語

 2008年阪神ジュベナイルフィリーズの覇者で、翌年の桜花賞、オークスの二冠馬。その後もヴィクトリアマイル、天皇賞・秋、ジャパンCを制し、4歳時には年度代表馬にも選ばれた名馬であるブエナビスタのことを、しかし端的に表現できる言葉は意外と見つからない。

 女王とか女傑とか、あるいは名牝とか。そういったいかにも「戦う女」や「強い女」的な呼称は、小柄でおとなしく、勝った時も負けた時も、いつだって真面目に、ひたむきにゴールを目指して走ることだけを考えていたような彼女には少々威勢がよすぎて、どこかそぐわない。

 ブエナビスタは、テイエムオペラオーやディープインパクトのような連戦連勝の怪物ではなかった。オグリキャップやウオッカのような、惨敗と圧勝の間を激しく行き来するジェットコースター・ムービーの主人公みたいな馬でもなかった。

 彼女の本質が、たぶん最もよく表れていると思われる数字がある。

 19戦連続1番人気という記録だ。

 途中に馬券発売のないUAEでの2戦を挟んではいるが、JRAのレースにおけるこの数字はテイエムオペラオーの15戦を大きく上回り、今なお破られていない史上最多記録となっている。

 つまり僕たちファンは、いつだってブエナビスタを信じていた。たとえ敗れても、彼女が誰の期待も裏切らない、最大限の走りをしようとしてくれていたことは、いつも不思議なくらい伝わってきた。

 直線の短いコースは好きではなかった。差し馬の宿命ともいえる展開の不利なんて、何度も見舞われた。

 実際、ブエナビスタは頻繁に敗れた。

 例えばテイエムオペラオーは15戦連続1番人気のうち10レースで勝利したが、ブエナビスタは19戦で8勝。半分以上で人気に応えることのできない形となった。

 敗れても、敗れても、僕たちは彼女を1番人気に支持し続けた。それはよくある人気先行とか過剰人気とは違っていた。

 一言でいえばそれは「信頼関係」のようなものだった。そしてそんな不思議な信頼関係こそ、ブエナビスタという競走馬にしか生み出せなかった奇跡として記憶されるべきものなんじゃないだろうか。ちなみにJRAのGIで2着が6回。さらに6勝とあわせて12連対。どちらの数字も単独での史上最多記録となっている。


(続きは、4月25日発売の『優駿』5月号でお読みください。)

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