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今月の立ち読み

引退特別企画

 パドックを見ていると、自分の意思に関係なく目に飛び込んできて離れない馬がたまにいる。理由はわからない。ただ、妙に感性を刺激してくるのだ。

 皐月賞のテイエムオペラオーがそうだった。毎日杯の優勝馬でもとくべつ注目していなかったし、馬券を買う予定もなかった。四角で細長い馬体はどちらかといえば嫌いなタイプだ。なのに不思議な輝きを放つ栗毛は何度も目にとまり、なにかを訴えてくる。

 シルエットや雰囲気がラムタラに似ているなと思った。そのときわたしは33億円で話題になったラムタラの輸入を基軸にした本を書いているときだったから、そういう意識が働いたのだろう。

 血統を見ると、母の父がラムタラとおなじブラッシンググルーム(父レッドゴッド)だった。なるほど、と思う。81年の二冠馬カツトップエース(ことしの皐月賞、ダービー戦線ではこの馬が話題になることでしょう)や96年の年度代表馬サクラローレルにも似たようなイメージがあった。カツトップエースの父はレッドゴッド産駒のイエローゴッド、サクラローレルの父はブラッシンググルーム産駒のレインボウクエストである。栗色のスプリンター、レッドゴッドの血を受けたステイヤーを思い起こしながら、あらためてパドックの栗毛を見る。

「おれをちゃんと見ておけよ」

 かれはたしかにそう言っていた(とわたしには感じられた)。

 レースにも驚かされた。2着のオースミブライトとの着差は首だが、後方から大外を回って追い上げてくる無駄の多いレースをしながらゴール前でさらに伸びて勝ちきったのだ。

 これはとんでもない馬だ――。

 そう確信したわたしは払い戻し窓口に向かう。戻ってきたのは発走除外になった馬に流した馬連だけだった。


(続きは、2月25日発売の『優駿』3月号でお読みください。)

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