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今月の立ち読み

未来に語り継ぎたい名馬物語

 740日。武豊が初めてディープインパクトに跨ってから、ラストランとなった有馬記念までの日数である。

「あの馬のことが、ずっと頭のなかにあった2年強でした」

 と振り返った、その濃密な時間が始まったのは、2004年12月15日、新馬戦に向けた追い切りからだった。

 前年の03年、彼は「不可能」と言われていた年間200勝を超える204勝を挙げ、この年も最終的に211勝という驚異的な勝ち鞍をマークする。デビュー18年目の35歳。日本の競馬史上最高の騎手がキャリアの絶頂期を迎えようとしていた時期に、史上最強と言われる稀代の名馬に出会ったのだ。

 武がほとんどすべての最速、最年少記録を更新し「天才」と呼ばれるようになったのは、卓越した騎乗技術もさることながら、馬の能力と個性を瞬時に感じ取り、それに合わせた騎乗で結果を出してきたことによる。追い切りで併せた相手を楽に突き放したディープは、そんな彼の高感度センサーが振り切れるほどの可能性を感じさせた。

 ――来年はとんでもないことになるぞ。

 と、確信に近い予感を得た一方で、スピードがありすぎることが気になった。新馬戦を勝つためだけならスピードを生かす競馬をしてもいいのだが、我慢の利かない逃げ馬になってしまうと、翌年のクラシックを勝てなくなる。そこで彼は、位置取りにはこだわらず、自分のリズムだけを大切にして走らせた。その結果が、軽く仕掛けただけで先行馬を抜き去り、2着に4馬身差をつける圧勝劇だった。

 翌週、この月になし遂げた海外通算百勝をテーマにしたインタビューの終わりぎわ、彼が言った。

「来年の楽しみな一頭を挙げるとしたら、先週デビューしたディープインパクトです。覚えておいてください」

 訊かれたわけではないのに、こんなことを言うのは珍しい。筆者が知る限りでは、スペシャルウィークで1997年秋の新馬戦を勝った翌週「楽しみな馬が現れましたよ」と話してくれたとき以来だ。

 スペシャルウィーク級の活躍が期待できそうかと訊いてみると、

「無事に行ってくれればね」

 と短く答えた。どんなよさがあるのか、という問いにはこう即答した。

「スピードが乗ってからの気持ちよさ」

 初めて聞く表現だった。デビューしたばかりの2歳馬に当てはめるより、完成された一流の古馬を評する言葉のように思われた。このころからディープは、彼に、きわめて上質な乗り物として特別な魅力を感じさせていたのだ。


(続きは、2月25日発売の『優駿』3月号でお読みください。)

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